「現在窮乏、将来有望」の感想レビュー
他人が書いた伝記って、本当かどうかわからない部分をさも本当らしく書いてあるのが
好きじゃなくて、読んだことなかったんだけど。
でも、やっぱ文章のプロが書いてるからめっちゃ読みやすいね!!
![]() | 現在窮乏、将来有望―評伝 全日空を創った男美土路昌一 (2009/12/12) 長治 早房 商品詳細を見る |
敗戦後、航空をアメリカに全部のっとられた時代。
それでも、日本の飛行機野郎を一度空へ返したい。
日本の航空は、日本で守らなければならない。
そういう戦いをしたANAをつくった男たちのはなし。
会社の設立時、航空業界は業務の特殊性から国家に依存せず、独立性を保たなければならないって考えた結果。
JALのように特定のオーナーをつけないで、会社や個人からちょっとづつお金を借りるということをしてたようです。
そのせいで会社作るギリギリまでお金足りなかったり、何度も経営危機を向かえ、社員を食べさせていくために、闇市場で食べ物売ったり、私財でお給料払ったり、かなり大変だったようで。
しかも、最初はヘリコプター事業がメイン。
その仕事なんて、農薬散布とチラシ巻きだからね。
天下のAMAが、ですよ。
パイロットがお客さんの荷物を出し入れするなんて普通で、整備士なんて、基地がないから色んな倉庫たらいまわしで、雨の中、表で整備する事だってあったそう。
お客さんが飛行機にのるタラップにあたる場所だって、トタン板のぼっろい掘っ立て小屋なんだよ。
なんで、そこまでしてみんな働いたのか。
なんでやめなかったのか。
以下引用。
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アメリカのGM、GE、IBM、ダウケミカルにせよ、(略)日本のソニー、本田、松下にせよ
企業の創業者には、従業員を始めとする多くの人々を豊かにしようという志があった。
言い換えればロマンを抱いていた。
(略)
こういうと今日リーダーを自認している政治家や経営者から「ロマンで利益を稼げるか」という反論が跳ね返って来るだろう。
彼等には「不況を脱して企業が再び利益を上げられるようになれば、あなた方は社会の閉塞感を解消できるのか」
という言葉を返したい。
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この話の主人公の美土路さんってひとは、日本の航空基盤を作った一人といっても過言ではないと思うんだけど。
このひと、人に再三請われて航空会社を作るために、自分の事業を放棄した経緯があり、元の事業に携わってた人たちに生涯負い目があったらしい。
そして、事業が軌道に乗ったとき、墜落事故があって全員が死亡したときも、何でしんだのが自分じゃないかとせめたらしい。
こんな成功した大実業家でも、こんな深い苦しみを持っているのかと思った。
そして、これは自伝を書くわけがない、とも思った。
きっと自分の人生が一点もない素晴らしい人生と思ってなければ、自伝なんてかけない。
そういう意味では、自伝を書ける実業家って言うのは、凄い希少なのでしょう。
というのも、世の中には素晴らしいことばかりではなく、誰かの犠牲の上に成り立っているのが普通です。
それらを一切無視して、自分をさも素晴らしい人間だと言うふうに自伝で書ける人って、それは「凄い希少」ですよね。
会社設立時のスローガンは、現在窮乏、将来有望だそうです。
心に刻んでおこう。
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