自覚なき悪の話
最近読んだこの本。
同和系人権団体の支部長をしてた小西という人間と、それを取り巻く諸々の人間の顛末を綴った回顧録。
そもそもなんでこんな本読んだのかというと…
先週の水曜、昼下がりの定食屋さんでランチ食べてた時の事なんですけど。
定食屋さんのテレビで、ちょうど関西電力の不正収賄の記者会見やってたんですよ。
テレビを見る限りの話の筋は
・地元の名士(助役)が関西電力の人間に多額の金を掴ませて、助役の関連企業に原発関連事業の発注をさせていた
・関西電力側は助役の脅しが怖くて断れなかった
・貰った賄賂は返すつもりだった
というもの。
この事件、なにが興味を引いたって。
関西電力の社長、原稿から一切目を離さず他人事のように棒読みで原稿を読み上げてたんですよ。
「言われたから仕方なく読み上げてる、内容は知らない」といった様子で「自分は悪くない、助役が全て悪い」と被害者づら全開の会見。
あまりの被害者づらに、私は途中まで、本人は無関係で、知らない先代社長の負の遺産を押し付けられた会見なんだと思ってました。
しかし、よく話を聞くと会見してる本人もめちゃくちゃ賄賂貰ってる。
どういう神経してるんだ、この企業は……
そんな感じで事件のことを、調べたらこんな記事が出てきまして。
わしを軽く見るなよ森山栄治さんからもらっちゃった関西電力、下手に深掘りしたら死人が出そうな闇案件と判明
で、この記事に「同和と銀行」が紹介されてたのが読んだ経緯。
長い。
あと、もうひとつ。
この「同和と銀行」に、小西が所属するある部落関連団体が出てくるんですが、なんと以前居た会社が、この団体と取引があったんです。
時々、社員全員に、会報誌みたいなものが配られたり、定期的に人権問題に関する講習会が開かれてました。
その時、会社は大体
「至らない我らに対して直々に教育していただくために団体の先生にお越しいただいた」
という、普通のサラリーマン社会で聞いた事のないような前口上を述べるのがお約束です。
一介のクリーンな顔した一部上場企業が、政治色の強い会報誌を何万部も契約してる時点で、なんかあるんだろうなとは思ってましたが、講習会のその様子でようやく察しがつき、
世の中、色んなお取引があるんだな
と震えあがった思い出があります。
なので、同和問題とか同和団体って、もしかして、子供の頃教科書で習った実態と違う側面を持ってるのでは…?
っていう興味もありました。
※創業80年以上(部落問題全盛の60-70年代にそこそこの規模になってた)の日系企業は、未だにそういう団体と大なり小なり何か契約をしてるところ、珍しくないのでは?と思います。
たぶん、契約のきっかけは、関電と同じように、同和名鑑(部落の地名一覧書籍)を買ったことが団体に知られて…みたいな話かと。
さて、本の中身の話に移りまして。
この本の主人公、小西。
同和地区出身で同和関連の人権団体の支部長というと、なんだか人権に熱心な純粋な人みたいに思いますけど、ヤクザ上がりです。
というか、この小西が所属してるこの人権団体、歴代の幹部の大部分がヤクザかテキ屋。
そして、その小西の凄いところは裏社会のみならず、大阪の政財界、警察、検察、なんでもパイプを持っているところだったようですね。
大阪の裏のドンとしてかなり有名な人物で、とにかく困ったことがあったら小西に相談すればなんとでもなるという具合だったよう。
その威光を示すエピソードとして面白かったのが、大阪にある、ビルの中を高速が突き抜けてる建物について。

出典
このビルができる顛末はこんな感じだったよう。
・土地所有者だったガス会社が、この土地に高層の新ビルを建てようとした。
・大阪市が割り込んできて、ビルは低層にしてくれ、上に高速道路を作りたい、と言い出した。
・困ったガス会社は、山口組系幹部をバックに付けて大阪市を退けようとした。
・それを見て大阪市は、小西をバックにつけ、小西に仲裁を依頼した。
・その後5年揉め続ける。
・最終的に小西と山口組系幹部の間で仲裁。結果できたのがあのビルの形状。
ちなみに両者の仲裁の場をセッティングしたのは、小西の子飼いの三和銀行の担当者。
ガス会社のビルの建築時の建設費の融資は三和銀行が主管だそうです。
ヒュー!暗黒の堕天使もびっくりのまっくろぐあい。
また小西の元に集まる権力の構造がまた面白い。
ヤクザは自分名義で融資が受けられないため、お金に困ると小西を頼る。
小西のお金はどこから出てくるかというと、三和銀行。
三和銀行は、小西が「明日までにいくら持ってこい」「金利は俺が決める」といえば、それでまかり通る。
なぜ小西がそんなに銀行に強く出れるのかといえば、前段のガスビルの融資のような形で、小西が絡む不動産事業の資金調達先に指定するなど、旨みを与えていたから。
また、銀行内で起きた、銀行側に都合の悪い刑事事件も、検察が立件間近という時に、小西が警察に電話一本入れただけで、何事も無かったように話が消え、翌日から新聞の報道もぱたりと消える…なんてこともあったそう。
(余談ですけど、池袋ひき逃げ事件の内情ってこんな所でしょう、胸くそ悪いですね。)
また、政治家のパーティの時には、金を貸した土建屋のヤクザ職員を集結させてパーティを盛り上げてるなどで、政界にも顔が効いていたようですね。
とにもかくにも、ずぶずぶやんけ………という世界。
しかし、そんな小西も最後はなんやかんやで逮捕されます。
飛鳥会事件という有名な話らしいのですけど、つまるところ、小西が請け負っていた市の駐車場の売上を長年過小報告して、差額を横領していた、というもの。
で、売上を三和銀行が管理していたため、三和銀行の歴代の小西担当者もこの事件の参考人となるんですが、逮捕後、小西は、こんなことを言ったそうです。
「ワシはそんなに悪やろか。警察の調書をみると、銀行の連中はみなワシに脅されて、仕方のう取引をした、言うとるんや」
この台詞を見た時、関西電力の会見のことを思い出したんですよ。
あの他人事のような会見を。
行政や企業は、こういう限りなく黒に近いグレーな人達を使って上手くやってきた(というか居なければなしえなかったことがあった)のは明白なわけです。
散々、旨みをしゃぶったはず。
確かに小西は本に書いてないところで相当色々やっていたんでしょう。
悪党ですよ。
なんと言っても、銀行の小西担当の一人は、取り調べ中に自殺してますしね。
しかし、散々悪党を利用しておいて、
最後は他人事のように「脅されてました」
といった、あの関西電力の社長。
一体、本当の悪党はどちらなのでしょう……?
本の最後に、興味深い一節があります。
小西が銀行に利用されてきた面は否定できない。
半面、銀行に利用されることにより周囲に自らの存在感を示すことができた。
それは本人の希望でもあったと言える。
だが、いざこざが起きると体良くお払い箱にされる。
結果、銀行は小西関連で80億円の不良債権を抱える羽目になった。
が、銀行にとって裏社会との接点として、小西を利用してきたというダーティーなイメージから比較すると安い代償ではないだろうか。
表向き、銀行は小西に脅され、仕方なく取引を繰り返した被害者扱いされている。
そして何より、組織的な関与は一切無かったことになっている。
それは銀行の狙い通りの筋書きではなかったか。
雪は、大気を舞う水分集まって結晶化したものですけど、でも実は、水分を冷やしただけでは雪の結晶にはならないそうです。
そこには必ず、大気に舞うチリという核が必要なんですね。
で、チリにひっついた水分冷やされ小さな結晶になり、そこにまた水分がくっつき…それが繰り返されて結晶になるんです。
きっと、巨悪ができる過程も同じなのでしょう。
確かに小西という「チリ」が核になったことは間違いないと思います。
でも、そこに群がる「水分」がなければ、「雪の結晶」という悪は出来なかったはずです。
水分が少なければ、大きな雪の結晶にはなりません。
現実の悪には、一人のカリスマが強力に悪を作る、という映画やゲームのような状況はありえないんだな、とこの本を読んで、心底思いました。
みんなが自分の利益をえようと「核」に群がり、少しずつ罪を重ね、因果を紡いだ結果、取り返しのつかない大きな悪が作りあげられたわけです。
だからこそ、真の悪党には、悪の自覚がない。
むしろ、時には自分が被害者だとすら思っている。
自分の責任を顧みもせずに。
悪が糾弾される時。
そのすぐ側に、
自分こそが被害者だと声高にいう人が現れたら、
その瞳の奥に、真の悪が潜んでいないか。
よく目を凝らして見るべきなのかもしれません。
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