ティッシュを買い漁る凡庸な悪。
どうですか、みなさん。
コロナウィルス。
トラブルや事故の時にこそ人間の本質的な問題や強さが露呈する、とはよく言いますが、国家の危機には国家の本質的な問題が露呈しますね。
いちばん面白いな~と思ったのは転売問題。
転売、めちゃくちゃ叩かれてますね。
私は、転売を叩いてる人の中での転売の定義が結構気になってます。
そもそも、ものを安く仕入れて高く売ることが悪なら、
彼らは三菱商事や丸紅本社の前で
「転売屋死ね!!!」
と叫ぶはずですが、そうでも無いようです。
じゃあ転売屋を叩く人の「転売屋死ね」の転売屋は、具体的にどういう定義なのでしょう。
法人だったらOKなのでしょうか。
むしろ大量買い占めなどの悪質な転売屋の方が、節税目的で法人立てるような気がします。
中古品を売る転売屋が許せないのでしょうか。
だとしたら、ブックオフはどうなのか?
高額転売がいけないのでしょうか?
骨董品店やまんだらけの高額商品はOKなのになぜ?
そもそも高額転売の高額の定義とは?
古物商許可証を持ってない人の転売は違法だから?
そうだとしても、許可証を提示する義務がない以上、その人が合法か違法かは分からないはず。
また海外輸入品は転売規制の対象外ですから、どれだけ転売しようと合法です。
買い占めが良くない?
とはいえ、物品の購入は「売買契約」であるため、店側には売買契約に応じない権利もあります。
限定10個の商品に対して、1人目の客が10個希望し、店側がその売買契約に応じたのなら、周りがとやかく言う権利はありません。
※お前なんでそんなに転売に詳しいんだよと思われるでしょうが、「転売がダメなら経済活動のほとんどダメになるのにこの叩かれよう何故?」と疑問が湧き、転売の合法性/違法性について調べたことがあるためです。
で、そのへんを踏まえた上で論破する転売批判を見てみたいのですが、あまり見かけません。
どちらかというと「転売屋は悪、という正義」を振りかざしたいのかなというように思います。
正義はエクスタシーの味がするからね。
それだけだったらネットで一人で正義自慰行為に励んでもらえばいいだけなのですが…
実はこの正義自慰のせいなのか、大衆の意見が
「転売屋にものが買い占められてるせいでティッシュなどが不足している」
という世論になっているようなんですよね。
転売屋は大衆の購買不安の心理の結果生まれるものです。
なんの購買不安もないところに転売屋が来て買い占める、というのは、考えにくいですね。
それではただの爆買いです。
買う人あっての転売ですからね。
しかし、転売屋を品薄の悪にしたてると、すごく都合がいいことがひとつあるんですね。
本当の悪に目がいかなくなる。
つまり、品薄を招いて社会を混乱させてる本当の悪を誤魔化すことが出来る。
じゃあ本当の悪って誰なのか。
Twitterで、「ティッシュ 行列」みたいなワードで検索すると、行列の画像出てくるんですが、ふっつーの人達たちなんですよ。
写真を撮った人も並んでる人なので、その人の他のツイートも見ていくんですが…
もう、非の打ち所のないほど善良そうな人々なんです。
地方に住み、家族仲良く犬や猫などを愛で、好きなアイドルのことや、その日のご飯のことなどをほのぼのと呟いている、善良な人々ばかり。
そして、それらをひとしきりTwitter巡回をしたあと、ふと思いまして。
「これ、ハンナ・アーレントが言ってた凡庸な悪みたいだな。」
凡庸な悪というのは、アウシュヴィッツでガス室送りのエキスパートだったナチスの高官が裁判で
「収容所にユダヤ人が溢れて入り切らないから処理しろって上司から言われたから、上司の期待に応えて頑張りました。それだけです。他意はないです。(超訳)」
と言い、
「悪というのは、自ら悪を自認して行うものと思いがちだが、そんなことは無い。普通の人が何も考えず、普通に巨悪を働く。」
ことを世界に知らしめた逸話です。
第二次大戦中に起きたナチスによるユダヤ人迫害のような悪は、根源的・悪魔的なものではなく、思考や判断を停止し外的規範に盲従した人々によって行われた陳腐なものだが、表層的な悪であるからこそ、社会に蔓延し世界を荒廃させうる、という考え方。
出典
本では読んだけど実際に目にすることは無い概念だったので、道端でツチノコ見つけたみたいな気分になりました。
知識と実体験が繋がった瞬間の感動というか。
たぶん、このティッシュに並んでる人達
「ティッシュ品薄なの?ニュースではデマだって言われてるけど、本当になくなったら困るから買いに行かなきゃ!」
位なんだと思うんですよ。
でもそこには
「なんか色んなこと言われて判断できないけどティッシュがないのは困る」
という思考や判断の停止が潜んでて、情報の出元や内容を踏まえて、その情報をどれだけ信用していいか判断できないんでしょう。
そして、こうした善良な人間が、パニックを作るんだな。
そんなことを思いながら、スーパーに行き、隣の若い女性が少なくなっているレトルトやカップ麺の棚を見て、慌てたように何十個もカップ麺をカゴに入れるのを横目で見ながら、改めて「凡庸な悪はなんて純真なのだろう」と私はしみじみ思いました。
オイルショックのトイレットペーパー不足のことを学校で習った時
「本当か…?そんなバカげたことが…?昭和の人はバカなのか…???」
と思っていたんですが、高度情報化社会を迎え、あらゆる教育が施されようと、30年たったくらいでは人間は何も変わらないものですね。
ちなみにハンナ・アーレントは、凡庸な悪について述べた本「エルサレムのアイヒマン」を出版した際、「悪は普通の善良な市民から生まれる」という論旨に対して、かなりのバッシングを受けたようです。
みんな、そんなこと信じたくないからね。
自分も自分の隣の人も善良な悪、なんて思いたくないでしょう。
こうして凡庸な悪は、これからも「人間が、人間の本質から目を背けたい心理」に守られ、平和にぬくぬくと生き続けるでしょう。
おわり。
ーーーーーー
【追記】
この記事について、「冷たい」とコメント頂き大変驚きました。
今回はティッシュ程度で済みましたが、歴史的に見ると「銀行が破綻するらしい」と聞いて不安に駆られた大衆がパニックになり、銀行窓口に大挙して金を引き出した結果、銀行が破綻し、国家レベルで経済危機に見舞われた事件は珍しくありません。
(銀行は関係ないだろ、と思うかもしれませんが、ティッシュ不足のあと、レトルト食品やカップ麺にまで品薄が普及していった様子から、そもそもパニックに論理的な整合性はないことがわかります。)
つまるところ、適正に判断する能力が低い人達に社会の仕組みを合わせた結果、彼らだけでなく、無関係な全ての人含めた社会自体が大きな打撃を被り、社会混乱に陥ったとしても、それを許容することは「優しさ」だというのでしょうか。
もしこれらを「優しさ」というのなら、「優しさ」というのもは、極端に視野が狭く、主観的にしか物を見る力のない人が、俯瞰的に物事を見る力のある人の論旨を理解出来ない故に抱く、独善性だと言い換えられるでしょう。
その上で、パニックになる人達を「優しく」受け入れ、社会全体を混乱させることが「温かい対応」だというのなら、その意見を非常に興味深く思います。
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2 Comments
いつもブログ拝読しています。本記事も追記と併せて読ませていただきました。広瀬さんのおっしゃっていることに同意です。法律上真っ黒なことをしているわけではないのになぜ転売屋は叩かれるのか、その辺能々考えた上で転売屋の是非について声を上げたほうが良いように思っています。
個人的には法的な視点より道徳的、社会通念的視点から転売屋死すべしと叫ばれているように感じています。花粉症の人で自分が毎年マスクやティッシュが必要だと思って小売店からまとまった数の物資を購入したけども、高くてもいいから売ってくれという人がいるから手間賃や保管料を上乗せして売ることで渋々分けてあげている、とすればその人のしている行為は転売屋と一緒ですが間違ったことをしていないと感じる方も出てくるかと思います。行為の問題ではなく動機の問題なのかなと。
もし転売が悪いことだと思ったのであればそこで売主を反射的に糾弾せず転売というシステムが悪いことかどうか社会のルールブックに記載されるように動くのがスマートだと思いますが、転売屋魔女裁判に興じている人たちがそこまで考えているかどうかははてさて。
とは言ってもペストの時と同様に流行病は地位や財産に関係なく関わらざるを得ない事象なので、ルールブックを作る人たちやその関係者たちの耳にもこの転売屋騒動について届いていそうですし後々ルールブックに載るかもしれませんね。
個人的には法的な視点より道徳的、社会通念的視点から転売屋死すべしと叫ばれているように感じています。花粉症の人で自分が毎年マスクやティッシュが必要だと思って小売店からまとまった数の物資を購入したけども、高くてもいいから売ってくれという人がいるから手間賃や保管料を上乗せして売ることで渋々分けてあげている、とすればその人のしている行為は転売屋と一緒ですが間違ったことをしていないと感じる方も出てくるかと思います。行為の問題ではなく動機の問題なのかなと。
もし転売が悪いことだと思ったのであればそこで売主を反射的に糾弾せず転売というシステムが悪いことかどうか社会のルールブックに記載されるように動くのがスマートだと思いますが、転売屋魔女裁判に興じている人たちがそこまで考えているかどうかははてさて。
とは言ってもペストの時と同様に流行病は地位や財産に関係なく関わらざるを得ない事象なので、ルールブックを作る人たちやその関係者たちの耳にもこの転売屋騒動について届いていそうですし後々ルールブックに載るかもしれませんね。