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honjitu no hirose

広瀬ヒロ

虚空に向かい思考を吐露して17年。 伴侶は孤独、幼なじみは希死念慮、命を支える偉大な信仰、降谷零。 自己葛藤から抜け出せない永遠のモラトリアム中年。引き続き、七転八倒をお楽しみください。
#コメントありがとうございます。ありがたく拝見しています!

餓死した英霊たち の感想。


最近、衝撃的な良書に出会った。





この本、図書館に読みたかった本を借りに行ったところ、たまたま隣にあっただけの、全く知らない本だったのだが……
なんとなく、ペラペラめくったところ、戦争物の本にしては珍しく読みやすい文体で、そのまま書架の前で数ページ読みふけってしまった。

どんな内容かと言うと、
「日本軍は、国のため家族のため、過酷な環境の中アメリカ軍と戦い、名誉の戦死を遂げ英霊になった、という通説があるが、実はそんなことはなく、大した武器も食料も持たされず、島に送られたため、一瞬で食料がつき、アメリカ軍と戦う所ではなく、基本的に配給が尽きたあとは、原住民の食料を奪うか盗む、芋の葉の水煮等を食べて生活し、ほとんどの人は栄養失調で餓死していた。」
という話。
それが、執念の調査とデータ収集で明るみにされている。


本は、ガナルカナル島、ポートモレスビー攻略戦、パプワニューギニア島の攻防、インパール作戦など、主要な作戦ごとに話が進むのだが、基本的には展開がおなじ。

食料が尽き、栄養失調になり、赤痢、マラリア、脚気になり、顔が土気色になり、歩けなくなり、死んでいく。
それの繰り返しをひたすら読む。

これどういうことかと言うと、著者の話の書き方のせいでそうなっているのではなく、陸軍の大本営が、どんな地域のどんな作戦でも、何回も何回も同じことをやり続けていたため、話を正確に書くほど、毎回話の展開が同じになってしまうという話のようだった。
読んでる途中でそれに気づきゾッとした。


では実際どれくらいの人が、栄養失調や飢餓に苦しみ亡くなったのか。
ある作戦での、死亡者、生存者の階級ごとの内訳表が興味深い。




嘘みたいだけど、戦死した人はめちゃくちゃ少ない。
というかほとんど病死…。

どの地域の戦いでも、大なり小なりの差はあれど、この表と大差ない状況だったようで、
本の中では、日本の太平洋戦争での軍人軍属の戦没総数のうち、約60~70%が栄養失調による赤痢やマラリアでの病死、もしくは直接的な栄養失調による病死に当たると述べられていた。

ちなみに、熱帯雨林のジャングルの中で半分以上が餓死するような状態というのは、どう言ったものなのか、それも本の中で触れられている。

この頃、アウンテン山に不思議な生命判断がはやりだした。
限界に近づいた肉体の生命の日数を、統計の結果から次のように分けたのである。

立つことの出来る人間は寿命30日間
体を起こして座れる人間は3週間
寝たきり起きられない人間は1週間
寝たまま小便をする者は3日間
もの言わなくなったものは2日間
またたき(ママ)しなくなったものは明日




食料の欠乏は敵弾以上の徹底的損害をわが軍に与えるようになってきた。
私の大隊の将兵もみんな飢餓で体力を消耗しきってしまい頬は落ち、髪は伸び放題となり、眼球は深くくぼんでそこには異様な光が残った。
そして、顎は飛び出し、首は一握りほどに細り、気力なく足を引きずってヨボヨボと歩き、着ているものは破れ、裸足で棒のように痩せた腕に、飯ごうをぶら下げ、草を摘み、水を汲んで歩く姿には、どこにも二、三十歳の年齢は見られず、おいさばられた、乞食といった様子だった。



この栄養失調の衰弱した体に、いちど下痢が始まり、マラリアが頭をもたげると、血便を下し40度前後の高熱に襲われ、キニーネなどの微温的な投薬では解熱どころかかえって下痢を悪化し、発病まではひと粒の米も貪り食ったものが、今度は戦友の心尽くしの一滴の粥すら欲しないようになり、水ばかり飲んであえいでいるのだった。



この作戦の終わった後で、戦没者の統計を調べると3割が敵の被弾による戦死、残る7割は病死だった。



たしかにガナルカナル島は補給が酷く、多くの兵が凄惨な飢餓に苦しんだことは有名だが、
読んでいると、それは特にガナルカナル島に限ったことではなく、ほとんどの作戦に言えたことで、なんなら中国戦線の戦いも似たようなものだったらしい。

この調子だと、バターン死の行進などは、近代戦争における最悪の捕虜虐待事件みたいに言われてるけど、むしろ、アメリカ軍に極悪非道みたいに言われて逆に驚いたんじゃなかろうか。
日本兵の扱いとだいたい同じか若干良いくらいだもんなァ。






そして、この本が良書だと思った一番の理由は、こう言った凄惨な話の方ではなくて。

実は、本の終盤で、
「なんで敵の占領する島に大した食料も武器も持たせず送り込む作戦を、大本営は何回もやり続けたのか」
が書いてあるのだが、その分析がめちゃくちゃ鋭いのだ。

そもそもこの戦争が負けた理由といえば、
・日清日露の成功体験に固執し、その成功体験を30年以上たっても信じ続けた自己改革能力のなさ
・事前の調査を怠るなど、分析能力のなさ
・人間関係の馴れ合いに影響されすぎる、合理的な判断力のなさ
・過去の経験から 学習する姿勢がなかった
などと言うのが鉄板で、非常に賢そうでお行儀のいい話が並ぶのが常だ。

これらは、色々な敗戦原因の研究でも指摘されていて日本社会の病理、という扱いを受けていると思う。

しかし、本当の問題は「じゃあなんでそれが出来ないのか」の方なのだ。その点になると、どの本もとたんに「日本の国民性」「当時の状況」「組織の問題」のようななんともフワァ~っとした話になり、核心的なことは書いてない。
そこに対して、この本は切り込んでいる。


この敗戦は飢餓の自滅であり、全軍部中央部の過誤によるもので、これは補給と関連なしに戦略戦術だけを研究し、教育していた陸軍多年の弊風が累をなしたもの。
(今村均第八方面軍司令官)



人間は食べなくては生きていけないのに、なぜ陸軍では補給の教育をしなかったのか。アホなのか。
その内情はこういうことらしい。

補給を無視して作戦計画を立てたり、将兵の衛生や給養の状態を考慮せずに戦闘を指導してきた日本軍は元々衛生や輜重など広報部門を軽視し、戦闘を主任務とする一般兵科と差別してきた。
これは、海軍も同様で兵站や輸送部門の担当者は一般陛下のものより一段兵科に位置付けられていたのである。




最も酷い差別は、幼年学校出身者(※現代で言うと防衛大付属中学みたいなもの。卒業後は、今の防衛大に当たる陸軍士官学校に進学する)は輜重兵科(※補給を担当する兵科)にはいかないという不問律があることであった。華やかな騎兵、歩兵志願が集まり、「ミソ」と蔑視されている輜重兵には志願者がいないのが当たり前であった。


まず、補給を担う兵站、輸送部門は最末端の部署で力がとても弱かった。
一方で、最も権力を持っていたのが、参謀本部の作戦課。

参謀本部第二課、即ち作戦課(※いわゆる大本営。陸軍の作戦の立案はこの課で行う)と教育総監部の第一課。それと、軍事課は、慣例として幼年学校でで陸大優等組が採用されるとしている。


幼年学校出身で、陸大優等生というのは、作戦課長の多くを占めていることが明らかである、作戦課作戦班に配属されるものは幼年学校出身、陸大優等生が多く、彼らが参謀本部を実質的に動かしたのである。



参謀本部は、陸軍のヒエラルキーの頂点。超エリート。
そして、最弱の兵站輸送部門と、最強の参謀本部がどう言った関係だったかと言うと……

幼年学校の教育が軍人至上主義的に傾けることと、3年から5年間の共同の寄宿生活をすることのために、自尊心と同類意識とがあまりに強く、したがって排他的になりやすく、ここに中学校出身者(※輜重科に配属される人達。一般中学卒業して士官学校に来た人たち)との間に対立軋轢関係が生じ、その事実がほとんどが陸軍生活を通じて消滅するに至らず、陸軍の統一を害したこと、必ずしも少しとなかった



つまるところ、内部進学組の勘違いしたおっさんによる「俺SUGEEEEE」が補給無しの戦争という奇妙な作戦の一因となっていたようである。

もともと幼年学校の生徒は、都会育ちで、地域の有力者、軍人の子息などで構成された、世間を知らないいいとこ育ちの集まり。
そこに加えて、幼年学校の教育内容が、兵法戦略の実学より、軍人精神論に偏っていたこと、
幼年学校出身者は、軍事的教育を中学出身者より長く受けている分、成績上位になりやすいという構造的な要素があったことなども影響し、
幼年学校は、「幼年学校出身者は、田舎の中学からでてきた中途組の下級将校とは違うんだよ。」という、プライド爆高、視野狭窄の軍国主義、エリート思想漬けの井の中の蛙大量製造機となっていたようだ。

陸軍のエリートたちの唯我独尊、無軌道ぶり、戦場での硬直した考え方などの原動力が幼年学校以来養われた攻撃精神、すなわち必勝の信念


こうした性格を持った幼年学校出身者が、作戦参謀となって作戦を立案したり、師団長や軍司令官となって命令を下した時、補給を無視した積極的な攻勢作戦を行って多くの将兵を飢えにさらしたのである



つまるところ、「勉強不足で補給のことをうっかり忘れていたメンゴメンゴ」という訳ではなくて、「元々物資不足で戦争を続けられる状態でないのに、補給をバカにしてる大本営を怖くて誰も止められなくて、結果無責任な作戦を看過し、人が大量に戦死した」という話なのではなかろうか。

また、大本営には、パワハラで部下を自殺に追い込んだり、兵が死ぬ作戦をわざわざ立てて大損害を与えるなど、とんでもないあたおかが何人かいたのだが、こう言った人達がなぜ発生したのかについても語られている。


少年時代から特殊な軍人教育を受ける結果、その思想は供すれば偏狭になり、また正常の感情を欠き、軍国主義的、封建主義的、普段主義的に傾くのである。これらの軍人が政治に関与し、いわゆる軍閥としてその政治的特権を汎用した時、国家として憂慮すべき事態を招来したのである。


少年時代の思慮なお足らず、処世的意思がなお定まらざるときに周囲の様々な関係と影響によって幼年学校という特殊の専門学校に入る結果、入学後あるいは将校になった後、その軍人という職業がその性格と合致しないものもあり得るわけであるが、そのものは国軍として不適当な将校、個人として不幸な人間となる。




そして、面白いのが、そういう人を左遷できない人事制度に対するこの一節。


辻や服部が衆目の一致する、ノモンハン、敗戦の責任者でありながら、たちまち中央の作戦担当者に復活して対英米戦を主導し、ガナルカナルの敗北を招いて、一旦退きながらまた返り咲くなど作戦の中枢にあった人物たちの人事には不可解な点が多い。



ここに出てくる辻というのは辻政信という、太平洋戦争期の陸軍参謀なのだが、なかなかヤバい人なので興味があればウィキペディアでも読んでいただきたい。
日本近代史の真実の一端を知ることが出来る。
言うなれば反社とサイコパスとカリスマ性がごちゃ混ぜになった「日本陸軍のワタミの社長」というべき人物で、半藤一利に「絶対悪」とまで言わしめる反面、そのサイコパス思想が当時の世相とマッチして「勇気あるかっこいい人」扱いされ、辻の地元には有志が作った銅像まである。
もうめちゃくちゃ。


しかし、皆さんの会社でもないだろうか。
そういうあたおかが、意外と会社の要職について誰からも責められない謎事案が。

調べると、辻は幼年学校出身で、軍の人事部もエリート職として幼年学校出身者で固められていたらしい。

想像して見てほしい。
自分の子供の頃から知ってる幼なじみが失脚して、悲しんでいたとして、その幼なじみから、何とかしてくれないかと何度も頼み込まれたら、少し同情してしまう人もいるのでは無いだろうか。

しかも、頼む側も頼まれる側も、軍人である限り、転職退職は出来ない。
子供の頃からその世界しか知らず、何としてもその組織に迎合して生きていくしか、他に生きる術を知らない、そういった旧知の人間からの頼みなのだ。

そして、その頼みを断れば、報復を受ける可能性だってある。
(ちなみにガ島の話のくだりで一木​支隊という部隊が玉砕する有名な逸話が出てくるのだが、本の中で一木大佐は元々はアッツ島派遣の予定が急にガ島に変更になったと書いてあり、だいぶ驚いた。どちらも凄惨な玉砕戦になることが分かっていた作戦であり、一木を潰したかった人間がいたことは想像に容易い。こういうことは軍部ではよくあったのだろう。)


実際こういう状況で断れない人の方が多いのではないかと私は思う。

こう言ったことは、敗戦後の批判では「人間関係の馴れ合いに影響されすぎる」という一言にまとめられているが、それだけで片付けられない状況を感じるし、それは現代の組織の問題にも通じている問題のように思う。









この本。
良かったのだが、おすすめできるかと言うと…。
出てくる作戦の戦局や戦闘の経緯、南太平洋地域の地理など、知ってることを前提として話が進むせいで、最低限求められるハードルが地味に高い。

ただ太平洋戦争関連の書籍が好きな方で未読であれば、これは是非オススメしたい。

様々な本で長年感じてきた
「いかに前の作戦で疲弊してたとしても、このポイント、この戦闘での死者が多すぎやしないか。」
という、うっすらした疑問の答えが恐ろしいリアリティを持って迫ってくるのだ。

太平洋戦争とは、兵士と兵士の戦争ではなくて、下痢や高熱や栄養失調に侵された病人と、兵士の戦争だったのだろう。


そして、日本は今後も戦争しない方がいいなと切に感じた。
これは平和への希求ではなくて、単純に本を読んで「日本が戦争下手すぎて話にならなさがヤバい」ことを心底痛感したからだ。

しかも、その下手さの原因である、組織的、政治的、民族的な病理は、戦後70年経っても衰えるところをみせず、今日も元気いっぱいに
「日本がオリンピックの対応下手すぎて話にならなさがヤバい」
という問題で国民を悩ませている。

ウイルスごときでこれだけ政治的に揉めてるのに、まじの戦争だったら目も当てられないだろう。


売られた喧嘩買って、相手が殴る前に勝手に自分の頭殴って死ぬ人間がいたら、普通に怖すぎるが、それが日本なのだ。

今後もこの恐怖を忘れずに生きよう。

ーーーーーー
追記 2021/7

この記事書いた翌月、「国が接種を死ぬ気で進めろと言ったのに、国のワクチン供給が追いつかなくて、摂取が止まる」というニュースが出てましたね。

ワクチン供給=戦争で言うところの兵站です。

もはやギャグでは…?




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1 Comments

やま says...""
めちゃくちゃ面白かったです。
買ってみます。
2021.06.17 04:14 | URL | #- [edit]

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