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honjitu no hirose

広瀬ヒロ

虚空に向かい思考を吐露して17年。 伴侶は孤独、幼なじみは希死念慮、命を支える偉大な信仰、降谷零。 自己葛藤から抜け出せない永遠のモラトリアム中年。引き続き、七転八倒をお楽しみください。

墜落遺体の感想

たとえば、今、私の体に0.数秒の間に数百Gがかかって、
そのあと、火災があったとする。

私の体は、Gに耐え切れず、骨が全て砕けて、まったいらになり、
腰の辺りでちぎれて、四肢は飛び散り、
頭蓋と顔の皮膚の一部は肩辺りにめり込み、
その後、焼けた岩のような肉塊の中から、
ぐしゃぐしゃの私の顔の皮膚が焼けずに出てくるかもしれない。


それを見た母は、その後の人生をどう生きるのだろうか。
焼けただれた、肢体も胴もない、私の顔の皮膚の一部を見て、父は生きていけるだろうか。



死を尊いものとして昇華できるかどうか、
凄惨な姿をしたその肉体の生の尊厳、死の尊厳を守り抜けるかは
家族やそれ以外含めた大勢の残された人達にかかっているのだと強く感じた本でした。


そして、この事故は、人が築いた英知によって生み出された地獄ではあるのだけれど、
それでもその地獄から人を掬うのもまた、人でしかないんだと、
人間という生き物の業とその裏にある光について、考えさせられました。



日航機墜落時の、警察側の現場トップの追憶記。
名著です。

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マリコ、津慶、知代子どうか仲良くがんばってママを助けてください。
パパは本当に残念だ。
ママ、こんなことになろうとは残念だ。
さようなら、子供たちのことをよろしくたのむ。
今六時半だ。飛行機は回りながら急速に降下中だ。
本当に今まで幸せな人生だったと感謝している。
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つぶされて形を失った顔面、前頭部のとんだ頭蓋。二つに切断された胴体。
焼け爛れて分解しつつある焼死体。手足がちぎれ、
下顎骨がかろうじて首とつながっているといった遺体が多い。(中略)
腰の安全ベルトのせいか、下腹部で切断されているか大きく破れて内臓が噴出している。
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臭気にまいって検死作業もできずに嘔吐、その後幾日か寝込んでしまった若い歯科医師。
ものすごい死臭とこれが人間かと思われる炭化遺体を目の前にして失神寸前となった医師。
(中略)米が蛆に見えて食べられず、一週間ザルソバで通した医師。
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言葉をかけ、抱いてやらなければその日の作業が終わっても、家へ帰れない心境になっていた。
A列8番の棺。その中には、幼い女児の頭部だけが寂しく眠っている。
小さな唇と、愛くるしいほっぺには微笑みさえ感じられる。
(中略)
「ごめんね、早くおうちに帰りたいねぇ、もうすぐ帰れるから待っててね。おやすみなさい」
時には冷たく凍ったその子の額を私の額につけながら話すこともあった。
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私は、これを読んだ日、読んだことと家族のことを考えたら、
玄関の明かりの有り難さに涙が溢れて家に入れなくなってしまい、
自宅の暗い庭で10分ほど泣いてしまった。


生きてるうちに、ほんとうに、一度は読んでおいたほうが良いと思う。
これを読んでいる人生と、読んでない人生は確実に違うと言い切れるし、
そういう本はこの世の中にそうあるものではない。







墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便 (講談社プラスアルファ文庫)


墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便 (講談社プラスアルファ文庫)

(2001/04/19)

飯塚 訓



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これだけでも十分貴重な本ではありますが、
この事件は規模の大きさから関係者が多く存在し、関連著書も多数出ていて、事件を様々な視点からとらえることができるのが特徴だと思います。

興味があれば、以下もお勧めです。


墜落の夏―日航123便事故全記録 (新潮文庫)墜落の夏―日航123便事故全記録 (新潮文庫)
(1989/07)
吉岡 忍

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事件の全体像など比較的マクロ視点。日航寄りな話が多い。
ルポなので、どうして事件が起きたか、どう墜落していったかの経緯、生存者の証言などより広い視点で描かれていていて、特に日航側の体制や、保障問題などの遺族対応の実情は大変興味深い内容です。
墜落遺体の裏で何が起きていたかよくわかります。


墜落現場 遺された人たち (講談社プラスアルファ文庫)墜落現場 遺された人たち (講談社プラスアルファ文庫)
(2005/07/21)
飯塚 訓

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墜落遺体の続編。
遺族のその後など時間軸をふまえて事件がどういう影響を及ぼしたかについて、
十数年後、作者が当時関わりのあった人達の現在を追ったもの。
事故によって夫婦に亀裂がはしったり、残された子供達が、現実を受け止め親を支え立派な精神性を備えた青年になっていたり、共通の体験が時を経てそれぞれの心でどう融解されていったのかに大きな違いがあり、
事件は点ではないんだと、本を読んでいる今も続いていることなんだとハッとさせられる内容です。



御巣鷹山と生きる―日航機墜落事故遺族の25年御巣鷹山と生きる―日航機墜落事故遺族の25年
(2010/06)
美谷島 邦子

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息子さん(他関連書籍にも出てくる1人で搭乗した男の子)を亡くした女性の記録。
この方は、812連絡会という遺族会で中心的役割をなさってた方で、
外部からはうかがい知れない発足の経緯、運営などが中心的に語られています。
まったくごく普通の女性たちが500以上の家族を力技で1つにまとめていったというのは、本当にすごいなと思いました。
また会報誌や電話のネットワークを通して遺族同士をつながり、そこから生まれる遺族の方たちの交流、
5年10年とたって遺族の心がどのように変化したかの調査結果などこちらも貴重であり興味深い内容となっています。

特に、遺族同士でしか知りえない心境についての記載は、他の類書からは絶対に出てこないであろう内容となっていて、
812連絡会を通じてであった奥さんと子供をなくして1人だけになってしまった2人のお父さんが、東京と関西で仕事が終わった夜中に電話をするというくだりは、読んでいて手が震えました。


あとは墜落の村という、墜落遺体、墜落現場の続編が未読ですが、それが気になりますね。


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